□ 財産分与請求権の内容は、基本は夫婦の財産関係の清算(清算的財産分与)ですが、離婚後の扶養としての性格のもの(扶養的財産分与)、精神的苦痛に対する慰謝料としての性格のもの(慰謝料的財産分与)及び過去の婚姻費用の清算(別居中の生活費等)が含まれる場合があります。
※上記のうち、清算的財産分与、扶養的財産分与及び過去の婚姻費用の清算(別居中の生活費等)は離婚に至った責任とは関係がなく請求できるとされています。
□ ここがポイント
・ 離婚の話し合いをするまでに、財産分与の対象になる財産を大まかにつかんでおく。
・ 普通の給与所得者では、財産分与と慰謝料を合わせて200万~500万円が相場と言われている。
・ 住宅ローン付不動産を財産分与する場合は、離婚協議書に、「所有権移転登記はローン完済後に行う」
等の取り決めをしておく。
・ 不動産を財産分与で取得した者が所有権移転登記をするとき、「登録免許税(不動産価格の2%)」が必
要。どちらが支払うか、離婚協議書に取り決めをしておく必要があります。
・ 「不動産や株券などの現物の財産分与」は、税法上売却と見做されます。購入時より評価額が上がって
いると、増加分について、譲渡する側(所有名義人)に「譲渡所得税」が課せられます。
「安易に、今後、名目のいかんを問わず、財産上の請求を一切しない」といった一筆を入れると、貰えるものももらえなくなる恐れがあります。
2024年5月に財産分与を請求できる期限を2年から5年に変更する改正民法が国会で可決された。
行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
関連情報
1. 財産分与請求権
(1) 財産分与請求権の内容
財産分与とは、離婚に際し、夫婦が協力し築いた財産を清算することです。
財産分与請求権の内容は、基本は夫婦の財産関係の清算(清算的財産分与)ですが、離婚後の扶養としての性格のもの(扶養的財産分与)、精神的苦痛に対する慰謝料としての性格のもの(慰謝料的財産分与)及び過去の婚姻費用の清算(別居中の生活費等)が含まれる場合があります。
財産分与請求権の内容のうち、慰謝料的財産分与を除く、清算的財産分与、扶養的財産分与及び過去の婚姻費用の清算(別居中の生活費等)は、離婚に至った責任とは関係がなく請求ができるとされています。
(2) 清算的財産分与(夫婦の財産関係の清算)
財産分与請求権の基本は夫婦の財産関係の清算です。清算的財産分与における分与する割合は、財産形成への貢献度に応じた割合となります。
(3) 扶養的財産分与(離婚後の扶養としての財産分与)
夫婦の協力によって築いた財産がない場合であっても、扶養的財産分与の請求ができる場合があります。
扶養的財産分与とは、例えば、病気中のときなど、離婚後に収入が見込めず、働くのも無理で、生活に困窮してしまうのは必至という事情があるが、財産分与として分ける財産がない場合に、経済的に強い立場の配偶者が離婚後も自活できるまでの間扶養するという考えによるものです。
扶養的財産分与の金額や支払期間(*)は、離婚後の収入、子どもの年齢、離婚に至った責任、婚姻中の生活態度、婚姻期間、経済的能力等の事情により変わります。
扶養的財産分与は、自分の固有財産や収入を割いてでも一定額を定期的に支払うべきとされ、経済的なメドが立つまでの短期的な支援が目的とされています。
* 定期金の支払いの場合、一般に1~3年が多いようです(安達敏男・吉川樹士(2017)『第2版 一人でつくれる契約書・内容証明の文例集』日本加除出版.299頁)
(4) 慰謝料的財産分与
慰謝料は、夫婦の財産関係の清算(清算的財産分与)とは性質が異なりますので、本来は別々に算定して請求するのが原則ですが、慰謝料と財産分与を区別せずに、まとめて「財産分与」として請求、支払をすることがあります。
この場合の財産分与は、有責配偶者からの慰謝料も含むという意味合いがあるので、慰謝料的財産分与と呼ばれています。
ただし、慰謝料と財産分与は法律上別ものです。両者をきちんと区別して確認しておく必要があります。
財産分与がなされたのちでも、不法行為を理由として改めて慰謝料の請求をすることは可能とされています。
□ 慰謝料について詳しくは、慰謝料 をご覧ください。
(5) 過去の婚姻費用(別居中の生活費等)
別居中の生活費等過去の婚姻費用の清算についても、財産分与に含めることができるとされています。 (最判昭53.11.14)
2. 財産分与の対象となる財産
□ 》》財産分与の対象となる財産 をご覧ください
3. 財産分与の按分率と分与の方法
□ 》》財産分与の按分率と分与の方法 をご覧ください
4. 財産分与の離婚協議書の記載
財産分与の対象、按分率・分与額、一括払いにするか分割にするか、支払い期限等支払い方法を決めます。
5. 財産分与の時効、財産分与と税、財産分与請求権の相続、他
(1) 財産分与の時効
財産分与の時効(財産分与を請求できる期間)は、離婚したときから2年です(除斥期間と考えられており、中断はありません)。慰謝料は時効により3年で消滅します(慰謝料を請求できるのは「離婚後3年以内」です)。
2024年5月に財産分与を請求できる期限を2年から5年に変更する改正民法が国会で可決された
(2) 財産分与と税(贈与税、所得税、不動産取得税、登録免許税)
□ 》》離婚と税金 をご覧ください
(3) 財産分与請求権と相続
本人が財産分与請求中に亡くなった場合は、財産分与請求権は相続されます。
ただし、本人が財産分与請求しないまま亡くなった場合は財産分与請求権は相続されません。
(4) 財産分与の支払いを確保する
離婚協議書を「強制執行認諾条項付きの公正証書」で作っておけば、支払いが遅れたときは、裁判なしで、裁判所が強制的に金銭等を回収してくれます。
※ ただし、財産分与されたものが不動産所有権などで金銭債権でない場合は公正証書による強制執行はできません。
給料を差し押さえる場合、通常は、財産分与のうち支払い期限が過ぎている部分についてのみとされ、かつ、給料4分の1までしか差し押さえできませんが、生活扶養的財産分与については、支払い期限が到来しない部分についても2分の1まで差し押さえできます。
民法768条(財産分与)
1 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
民法771条(協議上の離婚の規定の準用)
第766条から第769条までの規定は、裁判上の離婚について準用する。
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