□ 停止条件付遺贈(効力発生条件付遺贈)は、実現するかどうか未確定な事実が実現したら、遺贈の効力を発生させる遺贈。
□ 解除条件付遺贈(効力消滅条件付遺贈)は、発生するかどうか不確実な事実が成立したら、遺贈の効力を消滅させる遺贈。
□ 停止条件付遺贈により、将来取得予定の財産を遺贈することができます。
□ 停止条件付遺贈は、条件が成就(成立)して初めて遺贈の効力が生じます。これに対し、負担付遺贈は、負担の履行がなくても遺贈の効力が生じます。
1. 条件付遺贈とは
条件付遺贈とは、遺贈(遺言による財産の譲渡)の効力の発生を、 未確定若しくは不確実な事実の成否にかからしめる形式の遺贈のことをいいます。
条件付遺贈には、停止条件付遺贈(効力発生条件付遺贈)と解除条件付遺贈(効力消滅条件付遺贈)があります。
2. 停止条件付遺贈(効力発生条件付遺贈)
停止条件付遺贈とは、遺贈(遺言による財産の譲渡)の効力の発生を、将来、実現するかどうか未確定な事実の実現にかからしめる形式の遺贈のことをいいます。
停止条件付遺贈は、実現するかどうか未確定である事実が実現することにより、遺贈の法的効力を発生させます(財産を移転させる)
遺贈は一般的に被相続人の死亡により効力が発生し財産が移転しますが、停止条件付遺贈の場合には、遺言者の死亡時に先ず条件付権利を取得させ、条件が成立した時点(未確定な事実が実現した時点)で完全な権利を取得させます。
例えば、「大学に入学したら遺贈する」という遺言は、受遺者となる者が被相続人の死亡時にまだ大学に入学していなければ、遺言者の死亡時に先ず条件付権利を取得させ、大学に入学した時点で完全な権利を取得させます。
条件が成立しないうちに受遺者となるべき者が死亡したときは、その遺贈は無効となります。(民法994条②)
なお、遺言者の死亡時に条件の不成立が確定しているとき(大学に入学しないことが確定しているとき)は遺贈は無効となり、その停止条件付遺贈にかかる財産は相続人に帰属します。(民法131条②・995条 )
民法131条(既成条件)
1.条件が法律行為の時に既に成就していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無条件とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無効とする。
2.条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。
3 前二項に規定する場合において、当事者が条件が成就したこと又は成就しなかったことを知らない間は、第128条及び第129条の規定を準用する。
3. 同時存在の原則と別段の意思表示
受遺者は遺言の効力発生時(遺言者の死亡時)に生存していることが必要とされ、これを同時存在の原則といいます。
遺言者より先に受遺者となるべき者が死亡したときは遺贈は無効となり、その遺贈にかかる財産は相続人に帰属します。
また、停止条件付遺贈において、条件が成立しないうちに受遺者となるべき者が死亡したときも遺贈は無効となり、その遺贈にかかる財産は相続人に帰属します。
ただし、いずれの場合も、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います。
民法994条(受遺者の死亡による遺贈の失効)
1. 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2. 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
民法995条 (遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
4. 停止条件付遺贈により将来取得予定の財産を遺贈できる
条件付遺贈(停止条件付遺贈)により、将来取得予定の財産を遺贈することができます。遺言者死亡時において当該財産の所有権を取得していないときは、当該の遺贈は無効となります。
5. 停止条件付遺贈による受遺者が条件の成立前に死亡しても遺言の効力を失わせないことができる
停止条件付遺贈による受遺者が条件の成立前に死亡した場合は、当該の遺贈は無効となるが、遺言でその場合でも効力を失わない旨の定めをすることができます。
6. 相続財産に属さない権利を遺贈する~遺言による、将来取得予定の財産の遺贈~
相続財産に属さない権利を遺贈する遺言によっても、将来取得予定の財産を遺贈することができます。
遺言者死亡時において遺言者が当該財産の所有権を取得していなかったときは、遺贈の目的物が「相続財産に属しない権利」の場合として、遺贈義務者は遺贈を実現するために必要な手続きをしなければなりません。
民法996条(相続財産に属しない権利の遺贈)
遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。
7. 停止条件付遺贈と負担付遺贈の違い
停止条件付遺贈は、条件が成就(成立)して初めて遺贈の効力が生じる。これに対し、負担付遺贈は、負担の履行がなくても遺贈の効力が生じる。
8. 解除条件付遺贈(効力消滅条件付遺贈)
解除条件付遺贈とは、遺贈(遺言による財産の譲渡)の効力の消滅を、将来、発生するかどうか不確実な事実の成立にかからしめる形式の遺贈です。
解除条件付遺贈は、発生するかどうか不確実な事実が実現することにより、遺贈の法的効力を消滅させます。
遺贈は一般的に被相続人の死亡により効力が発生し財産が移転しますが、解除条件付遺贈の場合には、遺言者の死亡時に条件付権利を取得させ、条件が成立した時点(不確実な事実が実現した時点)で権利を消滅させます。
例えば、遺言者の息子の嫁に遺贈する場合に、「離婚すれば遺贈の効力を失う」という遺言は、受遺者となる息子の嫁は、遺言者の死亡時に解除条件付権利を取得しますが、離婚するとその時点で権利を失います。
解除条件付権利を取得した後、条件が成立しないうちに死亡した場合は無条件となり、遺贈の効力に影響はありません。 (民法131条②)
なお、遺言者の死亡時に条件の成立が確定しているとき(離婚することが確定しているとき)は遺贈は無効となり、その解除条件付遺贈にかかる財産は相続人に帰属します。(民法131条①・995条 )
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