□ 遺言執行を見据えて、遺贈対象物(客体)の「特定」に万全を期す必要があります。 客観的に特定可能で、解釈上疑義が生じないよう、特定できる記載が必要です。
□ 不動産、預貯金等は、遺言の効力が発生したら直ちに権利移転の効力が生じ得る程度に特定されていなければなりません。
□ 「全財産を相続させる遺言」や「包括遺贈」の遺言の場合は、不動産、預貯金等について特定する記載は必要ありません。 ただし、相続人にその存在を明らかにしておきたいときは特定する記載を行います。また、特定する記載をすることによって、遺言執行を円滑に進めることができます。
行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
1. 土地・建物
(記載例)
(1)土地
所在 〇〇市〇〇町〇〇丁目
地番 〇〇番〇〇
地目 宅地
地積 〇〇〇.〇〇平方メートル
(2)建物
所在 〇〇市〇〇町〇〇丁目〇〇番地〇〇
家屋番号 〇〇番〇〇
種類 居宅
構造 木造瓦葺二階建
床面積 一階 〇〇.〇〇平方メートル
二階 〇〇.〇〇平方メートル
土地については所在、地番、地目、地積を、建物については所在、家屋番号、種類、構造、床面積を書きます。
土地や建物等の不動産は、特定できる程度(土地の場合は地番、建物の場合は家屋番号)に記載すれば、遺言の効力上は問題ありませんが、登記申請に必要となりますので、登記簿全部事項証明書(登記簿謄本)の通りに記載することをおすすめします。( 固定資産評価証明書の表記を転記しないこと)
未登記の建物は、固定資産評価証明書の表記を転記します。(家屋番号はありません)
特に、不動産の所在地は、登記と合っているかどうか必ず確認してください。
(3)上記建物内の家財道具の全て
※ 家の中にある物は家を相続した者のモノと考えがちですが、法的にはなかなかとおりません。
(4)○○○○火災保険(契約番号○○○)の契約者の権利全部
2. 土地・建物の共有持分
(記載例)
(1)土地
所在 〇〇市〇〇町〇〇丁目
地番 〇〇番〇〇
地目 宅地
地積 〇〇〇.〇〇平方メートル
遺言者〇〇〇〇持分 2分の1
(2)建物
所在 〇〇市〇〇町〇〇丁目〇〇番地〇〇
家屋番号 〇〇番〇〇
種類 居宅
構造 木造瓦葺二階建
床面積 一階 〇〇.〇〇平方メートル
二階 〇〇.〇〇平方メートル
遺言者〇〇〇〇持分 2分の1
3. 土地の私道持分
(記載例)
土地
所在 〇〇市〇〇町〇〇丁目
地番 〇〇番〇〇
地目 公衆用道路
地積 〇〇〇.〇〇平方メートル
遺言者〇〇〇〇持分 〇〇〇〇〇分の〇
4. 土地・建物(現況と登記簿が違う場合)
増築等により、現況と登記簿が違う場合は、両方を記載します。
(記載例)
(1)土地
所在 〇〇市〇〇町〇〇丁目
地番 〇〇番〇〇
地目 宅地
地積(登記)〇〇〇.〇〇平方メートル
(現況)〇〇〇.〇〇平方メートル
(2)建物
所在 〇〇市〇〇町〇〇丁目〇〇番地〇〇
家屋番号 〇〇番〇〇
種類 居宅
構造 木造瓦葺二階建
床面積(登記)一階 〇〇.〇〇平方メートル
二階 〇〇.〇〇平方メートル
床面積(現況)一階 〇〇.〇〇平方メートル
二階 〇〇.〇〇平方メートル
5. マンションの一室(敷地権登記あり)
(記載例)
(一棟の建物の表示)
所 在 〇〇市〇〇町△△番地△
建物の名称 〇〇マンション
(専有部分の建物の表示)
家屋番号 〇〇市〇〇町△△番△△
建物の名称 △△号
種類 居宅
構造 鉄骨鉄筋コンクリート造1階建
床面積 △階部分 △△・△△平方メートル
(敷地権の目的である土地の表示)
土地の符号 1
所在及び地番 〇〇市〇〇町△△番△
地目 宅地
地積 △△△.△△平方メートル
(敷地権の表示)
土地の符号 1
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 ○○○○○○分の○○○○○
※ 区分建物に関する登記申請情報も、登記事項証明書の記載通りに記載するのが原則ですが、一棟の建物について建物の名称(〇〇マンション)があるときは、一棟の建物の構造及び床面積は省略することができます。(不動産登記令3条8号ヘ、ト)
6. マンションの一室(敷地権登記なし)
(記載例)
① 土地
所在 〇〇市〇〇区〇〇△丁目
地番 △△番△
地目 宅地
地積 △△△△.△△平方メートル
(共有持分 ○○○○○○分の○○○○○)
② 区分建物
(一棟の建物の表示)
所在 〇〇市〇〇区〇〇△丁目△△番地△
建物の名称 〇〇
(専有部分の建物の表示)
家屋番号 △△
建物の名称 △△号
種類 居宅
構造 鉄骨鉄筋コンクリート造 △△階建
床面積 △階部分 △△.△△平方メートル
7. 不動産賃借権
(1) 借地権
(記載例)
土地の所在 〇〇市〇〇町〇〇丁目
地番 〇〇番〇〇
地目 宅地
地積 〇〇〇.〇〇平方メートル
賃貸借契約期間 昭和〇〇年〇〇月〇〇日から令和〇年〇〇月〇
日まで
月額賃料 〇〇万〇千円
賃貸人 〇〇〇〇
※ 土地・建物の賃借権について
土地・建物を借りていた場合には、賃借人が死亡した場合でも、賃貸借契約が当然に終了するわけではありません。賃借権(賃借人としての権利)も相続の対象となります。
なお、賃借権を相続する場合には相手方の同意は不要です。(賃借権を譲渡する場合は賃貸人の同意が必要)
(2) 借家権
(記載例)
建物の所在地 〇〇市〇〇町〇〇丁目〇〇番地〇〇
家屋番号 〇〇番〇〇
種類 居宅
構造 木造瓦葺二階建
床面積 一階 〇〇.〇〇平方メートル
二階 〇〇.〇〇平方メートル
賃貸借契約期間 昭和〇〇年〇〇月〇〇日から令和〇年〇〇月〇
日まで
月額家賃 〇〇万〇千円
賃貸人 〇〇〇〇
建物賃貸借契約に基づき記載する。
※ 借家権について(参考)
① 一般法上の借家権
一般法上の借家権は財産権として相続の対象となると解されています。
借地借家法36条(居住用建物の賃貸借の承継)
1. 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2. 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。
② 特別法上の借家権
特別法上のものは、その法規に従って決まります。
公営住宅の使用権については、最高裁は、公営住宅法の目的、入居者の資格制限、選考方法など公営住宅法の規定の趣旨に鑑みれば、「公営住宅の入居者が死亡した場合に、その相続人は、当該公営住宅を使用する権利を当然に承継するものではない」としています(最判平成2年10月18日、出典:裁判所ホームページ)。
ご自分で書かれた遺言書の点検をご希望の方
遺言書の作成サポートをご希望の方