□ 相続分のないことの証明書とは、相続財産があるのに事実上の相続放棄をすることになる書類です。
□ 不動産の相続登記では、「遺産分割協議書」が必要ですが、これに代わる簡便な方法として、「相続分のないことの証明書」に実印を押し印鑑証明を付けることで代用することが認められています。
相続分のないことの証明書を書き「相続分の放棄」をしても、法律で定められた相続放棄とは効果が異なります。相続分のないことの証明書では、負債や連帯保証人の地位は、法定相続分に応じて引き継ぎます。債務を引き継がないためには「相続放棄」をすることが必要です。
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埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
1. 相続に伴う不動産の登記と相続分のないことの証明書
「遺産分割」、「相続放棄」または「相続分の譲渡」により相続遺産が確定すると不動産の相続登記ができます。
不動産の相続登記では、実印を押印し印鑑証明を付けた「遺産分割協議書」が必要ですが、これに代わる簡便な方法として、「相続分のないことの証明書」(または、 相続分皆無証明書、相続分不存在証明書、特別受益証明書とも言う)に実印を押印し印鑑証明を添付することが認められています。
相続分のないことの証明書は、煩雑な「相続放棄」手続きや「遺産分割」協議手続きに代わる「事実上の相続放棄」をすることになる書類として、相続登記のための手段として利用されています。
2. 相続分のないことの証明書
相続分の価格以上の特別受益(生前贈与)を受けた相続人は、遺産についての権利はありません。相続分のないことの証明書は、相続人が被相続人から相続分以上の特別受益(生前贈与)を受けているので相続分はないことを証明するものです。
相続分のないことの証明書があれば、印鑑証明と一緒に提出する(*1)ことにより、相続人一人の名義で不動産の相続登記をすることができます。
*1 「相続分のないことの証明書」には、印鑑証明書を添付しておくべきです。
実際には特別受益(生前贈与)を受けていない場合でも、相続放棄の手続きをとらず、この証明書によって事実上の相続放棄が行われています。
この場合も、遺産を相続人の一人に単独で取得させるとする意思が相続人全員に認められば、無効とは言えないとされています。
3. 「相続分のないことの証明書」利用上の注意
相続分のないことの証明書は、相続放棄と全く同一の効力を持つものではありません。
「相続放棄」すれば親の借金等マイナスの財産を引き継ぐことはありませんが、「相続分のないことの証明書」では、親のプラスの財産を放棄するだけでなく、親の借金等マイナスの財産を引き継ぐことになります。
※ 相続人のうちの一人が、遺産や借金など相続財産の内容を教えないで「相続分のないことの証明書」を他の相続人に送り、署名捺印を求めることも考えられます。
「相続分のないことの証明書」に署名捺印するときは、遺産を取得する相続人が借金等マイナスの財産を引き継ぐことを定めることも、場合によっては検討する必要があります。
なお、債権者は、相続人全員に対して、法定相続分(実際にもらった分け前ではありません)に応じた債務の返済を請求できます。
4. 未成年者が作成した「相続分のないことの証明書」
相続登記の申請において、未成年者が作成した「相続分のないことの証明書」の添付があった場合でも、印鑑証明書が添付されていれば受理して差し支えないとされています。
ただし、満15歳未満の未成年者は意思能力を有しないとされ、印鑑登録できません。
(出典:小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識 -相続人と相続分・遺産の範囲・遺産分割・遺言・遺留分・寄与分から戸籍の取り方・調べ方、相続登記の手続・相続税まで-』日本加除出版.99頁)