□ 「限定承認」とは、プラスの財産の範囲でのみ被相続人の借金等の負債を支払iい、自分(相続人)の財布からは払わないという、非常に合理的な方法です。
□ はっきりとは分からないが遺産よりも借金の方が多そうな場合は、相続放棄ではなく、限定承認を検討します。
□ 相続放棄する財産のなかにどうしても欲しい物があるときは、限定承認を選択すれば優先的に買い取ることができます。
□ 限定承認の手続き;相続人になったことを知ったとき(被相続人の死亡)から3ヵ月以内に財産目録を作成して家庭裁判所に申し出ることが必要です(3か月を過ぎてから負債があることが分かった場合は、その負債の存在を知ったときから3か月以内)。
□ 限定承認の申し出は、共同相続人「全員」で行う必要があります(共同相続人のうち1人でも反対すれば限定承認はできなくなる)。
□ 預貯金の払い戻しなど相続財産を処分すると、負債の存在を知らなかったとしても、限定承認はできなくなります。
□ 相続の方法は、単純承認、限定承認、相続放棄に限られ、相続財産の一部のみを相続することはできません。
行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
1. 限定承認とは
「限定承認」とは、相続したプラスの財産の範囲でのみ、被相続人の借金等の債務を支払う、という意思表示をすることです。
相続したプラスの財産で借金等の債務を支払い、あまりが出れば相続できます。また、債務超過であっても、超過分を支払う必要はありません。
民法922条(限定承認)
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
2. 限定承認を選択すべきケース
はっきりとは分からないが、遺産よりも借金の方が多そうだ、あるいは、被相続人が連帯保証人になっていたようなので不安だという場合は、リスクを避けるため「限定承認」を選択することをお勧めします。
負債だけを相続してしまうリスクを避けながら、相続財産がプラスだった場合は相続することができます。
その他、債務の方が多いのは間違いないが、特定の財産を是非相続したいという場合も限定承認に適しています。
3. 限定承認の手続き(家庭裁判所へ申述する)
STEP 1 限定承認申立書の提出
遺産を整理してみないとプラスになるのかマイナスなのか分からない場合は、相続開始後、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続限定承認申述書」を提出できます。限定承認の申述は、相続を知ったときから3ヵ月以内に、財産目録等を調製して家庭裁判所に申し出ます。
民法924条(限定承認の方式)
相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
申し出は、共同相続人「全員」で行う必要があります(共同相続人のうち1人でも反対すれば限定承認はできなくなる)。
ただし、複数の相続人のうち一部の相続人が相続放棄をした場合は、残りの相続人だけで限定承認の手続きができます。
民法923条(共同相続人の限定承認)
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
STEP 2 限定承認受理の審判と相続財産の清算
相続人が複数の場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産清算人を選任します。
相続財産清算人は、相続財産の管理と清算手続き(債務の弁済)が行われます。
STEP 2-1 官報で除斥公告(相続債権者・受遺者への申出公告)
相続人(相続財産清算人がいる場合は相続財産清算人)は、裁判所から受理の通知を受けてから5日以内(相続財産清算人がいる場合は10日以内)に、各債権者・受遺者に、2カ月以上の期間を定め、債権を申し出るよう公告し、債権者を特定します。
STEP 2-2 相続財産の換価
相続人(相続財産清算人がいる場合は相続財産清算人)は、2か月以内に、相続財産を競売若しくは任意売却により換金し、その範囲で、相続債権者・受遺者に優先順位、債権割合に応じて配当します。
STEP 2-3 遺産分割
相続人(相続財産清算人がいる場合は相続財産清算人)は、残余財産が確定したら、プラスの場合は遺産分割を行います。
民法936条(相続人が数人ある場合の相続財産の清算人)
1. 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の清算人を選任しなければならない。
2. 前項の相続財産の清算人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3. 第926条から前条までの規定は、第1項の相続財産の清算人について準用する。この場合において、第927条第1項中「限定承認をした後5日以内」とあるのは、「その相続財産の清算人の選任があった後10日以内」と読み替えるものとする。
4. 限定承認の申し出期限
相続放棄、限定承認の手続き;相続を知ったときから原則として3ヵ月以内に、相続人から家庭裁判所に申し立てます。
3ヶ月(熟慮期間)の起算点は、被相続人の死亡と自分が相続人になったことを知ったときです。
(例外的に相続財産(債務)の存在を知ったとき*)
* 相続人が相続財産も相続債務もまったくないと過失なく信じていたところ、突然債務が存在することが判った場合には、債務の存在を知ったときから熟慮期間を起算すべきとする判例があります。
3ヶ月(熟慮期間)以内に、家庭裁判所に、「相続放棄」または「限定承認」の申し立てをしないと、自動的に「単純承認」したものとみなされます。
3ヶ月では相続財産の調査ができないときは、家庭裁判所に申し立てを行い、熟慮期間を延長してもらうことができます。
5. 限定承認の撤回と取消
いったん限定承認をすると、熟慮期間内でも取り消すことはできなくなります。
しかし、民法第一篇総則又は、民法前編親族の規定によって取り消せる場合(未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人、詐欺・強迫等)には、取り消したうえ、改めて、これをやり直すことができます。 この取り消しは、民法124条の追認の要件が備わった時から6か月間行わないか、承認や相続放棄をした時から10年経つと時効によりできなくなります。
6. 混同と限定承認
相続すると、被相続人と相続人は合体し、相続人が被相続人に対して持っていた権利義務はなくなります。これを混同といいます。
限定承認をしたときは、混同はなかったものとして、相続人が被相続人に対して持っていた債権・債務の清算手続きをします。
7. 先買い権
財産のなかにどうしても残したい財産があるときは、限定承認を選択し、家庭裁判所に鑑定人の選任を申し立て、評価額を支払います。ただし、担保に入っている場合を除きます。