遺留分~妻子などに認められる遺産の最低保証~

 遺留分とは、法定相続人が有する、遺言によっても奪うことのできない、遺産の一定割合(留保分)のことです。

□ 遺留分を取り戻すことが「できる」人は、 ① 配偶者  ② 子(代襲相続になる場合の孫等も含む)(民法887条) ③ 直系尊属(父母等)   です。 

※ 「兄弟姉妹」に遺留分はありません。 また、相続権を失った者(相続欠格者、相続人を廃除された者及び、相続を放棄した者)に遺留分はありません。 

 

□ 遺留分割合:取り戻すことができる割合

① 相続人が直系尊属(両親等)だけの場合  法定相続分の3分の1

② それ以外                法定相続分の2分の1

 

□ 法律では遺言で遺留分を侵害してはならないと定めているわけではなく、遺留分さえもらえなかった相続人は遺留分侵害額請求ができるとしています。 

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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 1. 遺留分の意味

 

 遺留分とは、法定相続人が有する、遺言によっても奪うことのできない、遺産の一定割合(留保分)のことです。

 法定相続人は、遺留分の分配さえも受けられなかったときは、被相続人が他の相続人や第三者に与えた財産について、遺産の法定相続分割合に遺留分割合を乗じた割合に達する価額まで、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(※)。 

 

 遺留分制度の目的・趣旨は、相続人が一定割合の遺産を相続することを保障し、遺言による財産の分配によって一部の相続人のみが生活不安定になるといったことのないようにすることにあります。

 

 ※ 2018年(平成30年)の民法改正前は、遺留分減殺請求がなされると、当然に物権的効果が生じ、遺贈(又は贈与)の一部が無効となり、遺留分権利者と共有となった。

 

2. 遺留分権利者(遺留分侵害額請求することができる人) 

 

① 配偶者 

② 子(代襲相続になる場合の孫等も含まれます)(民法887条 )

③ 直系尊属(父母等)

 

※ 「兄弟姉妹」には遺留分はありません。 

※ 「相続欠格者」、「相続を廃除された者」及び、「相続を放棄した者」は遺留分はありません。 

 

※ 逆のパターンとして、「遺留分を放棄」していても、「相続放棄」したことにはなりません。

※ 「相続人廃除」や「相続欠格」によって子(本来の相続人)が相続人でなくなっても、孫は代襲相続できます。

 一方、子(本来の相続人)が「相続放棄」した場合には、孫は代襲相続は認められません。

 

3. 遺留分割合(遺留分侵害額請求することができる割合)

 

 共同相続人に帰属する相続財産に対する遺留分の割合(総体的遺留分)は、

 

① 「直系尊属(両親等)だけが相続人」の場合 法定相続分の3分の1 

② それ以外 法定相続分の2分の1

 

※ 「法定相続分」 は、

① 配偶者2分の1、子 2分の1

② 子がいない場合 配偶者3分の2 直系尊属3分の1 

③ 子も直系尊属もいない場合 配偶者4分の3 兄弟姉妹4分の1  

 

4.  遺留分を侵害する遺言の効力 

 

 法律は遺留分を侵害してはならない、と定めているわけではありません。遺留分をもらえなかった相続人は、遺留分割合に達するまで相続財産を取り戻すことができる、と定めているだけなので、遺留分侵害額の請求がなされなければ、遺留分を侵害する遺言といえども有効です。  

5. 相続人の組合せ別の「遺留分」(個別的遺留分)

 

相続人の組合せ

配偶者

直系尊属(父母等)

兄弟姉妹

配偶者と子

1/4

1/4

 

 

配偶者と直系尊属

2/6

 

1/6

 

配偶者と兄弟姉妹

3/8

 

 

なし

配偶者だけ

1/2

 

 

 

子だけ

 

1/2

 

 

直系尊属だけ

 

 

1/3

 

兄弟姉妹だけ

 

 

 

 なし

 6. 遺留分割合の組み合わせ表(個別的遺留分)

 

 

配偶者

子ども

直系尊属

きょうだい

 

 組み合わせ

4分の1

4分の1

なし

なし

6分の2

(いない)

6分の1

なし

8分の3

(いない)

(いない)

 (いる)なし

2分の1

(いない)

(いない)

(いない)

(いない)

2分の1

(いる)なし

なし

(いない)

2分の1

(いない)

なし

(いない)

2分の1

(いる)なし

(いない)

(いない)

2分の1

(いない)

(いない)

(いない)

(いない)

6分の1

(いる)なし

(いない)

(いない)

6分の1

(いない)

(いない)

(いない)

(いない)

なし

民法904条(特別受益者の相続分) 

前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

 

民法1029条(遺留分の算定)

1.遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。

 

2.条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。民法1042条(遺留分の帰属及びその割合)

1.兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一

二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

2.相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

 

民法1030条 (遺留分の算定) 

贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

 

民法1043条(遺留分を算定するための財産の価額)

1.遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。

2条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

 

民法1044.条

1.贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

 

民法1045条

1.第千四十五条 負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。

2不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。

 

民法1046条(遺留分侵害額の請求)

1.遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。

一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額

二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

 

民法1047条(受遺者又は受贈者の負担額)

1.受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。

一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。

二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

2第九百四条、第千四十三条第二項及び第千四十五条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。

3前条第一項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。

4受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。

5裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

 

民法1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

1.遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

遺留分制度に関する民法の改正(2018年(平成30年))

 

(2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続について適用される)

 

1. 改正により、遺留分の権利の内容は金銭債権に変更され、遺留分請求には物権的効果はなくなり、遺留分侵害額に相当する金銭債権を生ずるのみとなった

 

 民法改正前は、遺留分減殺請求の物権的効果(現物弁償)によって、対象財産の所有権(または共有持分権)が移転するとされていましたが、改正により、遺留分の権利の内容は金銭債権に改められ、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができるだけとなりました。

 

 遺留分減殺請求権の行使によって、事業継承に支障を生じさせる場合もあることから、これを回避するため、遺留分侵害額に相当する金銭債権に改められたものです。

 ただし、遺留分侵害額請求権も形成権であり、遺留分権利者の一方的な意思表示により法律関係の変動を生じさせます。

 

民法1046条(遺留分侵害額の請求) 

1.遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。  

 

2. 裁判所が支払い期限を設けることができる、とされた 

 

 また、民法改正により、遺留分侵害額の請求を受けた義務者は、直ちに金銭を用意できないときは、裁判所に対し、期限の許与を求めることができるとされ、受遺者等の請求により、裁判所が支払い期限を設けることができることとなりました。 

 

3. 遺留分侵害額請求権の時効について

 

 現行法と同じです。(知った時から1年間、相続開始の時から10年)。

 なお、この請求権を行使することにより生じた金銭債権の消滅時効については、民法の一般の債権と同じです。(債権法改正により2020年(令和2年)4月1日からは5年または10年になりました。)

 

民法1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

1. 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。  

 

4. 遺留分算定の基礎となる財産に算入されるべき「特別受益」に該当する生前贈与の遡及期限が変更された

 

 改正前は、相続人が受けた「特別受益」に該当する生前贈与については、無期限で過去にさかのぼって遺留分算定の基礎となる財産に算入するとされていたが、2018民法改正により、被相続人の死亡前10年間に贈与されたものに限定された。(原則として、死亡10年前の日より過去に贈与されたものは算入しない。)

 

(1) 相続人が受けた生前贈与等の遡及期限の変更

 

(民法改正前)

ⅰ)「特別受益」に該当する生前贈与は無期限で過去にさかのぼって算入する。 

ⅱ)「特別受益」に該当しない生前贈与及び「不相当な対価による有償行為(低額譲渡)」は、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合は無期限で過去にさかのぼって算入する。

 当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知らなかった場合は「相続開始から1年前」までの期間になされたものに限り算入する。

 

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(民法改正後)

ⅰ)特別受益に該当する贈与は、「相続開始から10年前」までの期間になされたものに限り算入する。

 ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合は無期限で過去にさかのぼって算入する。

 

民法1044条

1.贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2.第904条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。 

3.相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。 

 

ⅱ)特別受益に該当しない生前贈与及び「不相当な対価による有償行為(低額譲渡)」)については、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合は「相続開始から10年前」にさかのぼって算入し、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知らなかった場合は、「相続開始から1年前」にさかのぼって算入する。  

 

(2) 相続人以外の第三者が受けた生前贈与等の遡及期限については変更はありません 

 

(相続人以外の第三者が受けた生前贈与等の遡及期限) 

 

 相続人以外の第三者が受けた生前贈与及び「不相当な対価による有償行為(低額譲渡)」については、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知らなかった場合は「相続開始から1年前」までの期間になされたものに限り算入し、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合は無期限で過去にさかのぼって算入する。 

 

民法1030条(遺留分の算定)

贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。  

 

5. 遺留分侵害額を求める計算式が明文化された 

 

侵害された額=【遺留分算定の基礎となる財産の価額 (*1) − 相続債務】×「遺留分権利者の法定相続分」× 遺留分割合 (*2)  − 【遺留分権利者が実際に受け取った相続財産の価額(*3)】− 遺留分権利者が受け取った特別受益額 + 同人が負担すべき相続債務の額 

 

*1  遺留分算定の基礎となる財産(みなし財産)の価額 = 相続開始時における相続財産の価額 + 相続人に対する生前贈与の価額(原則、過去10年以内)+ 相続人以外の第三者に対する生前贈与の価額(原則、過去1年以内)

 

*2  (1/2)直系尊属(両親等)だけが相続人の場合は 1/3 

*3  寄与分・特別寄与制度による修正は考慮しない 

 

民法1046条(遺留分侵害額の請求)

2 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。

一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第一項に規定する贈与の価額

二 第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額 

三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

 

民法1042条(遺留分の帰属及びその割合)

1.兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。 

 一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一 

 二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一 

2.相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。 

 

6. 負担付遺贈がされた場合の遺留分を算定するための財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額と解釈の明確化がされた

 

民法1045条

1.負担付贈与がされた場合における第1043条第一項に規定する贈与した財産の価額は,その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。  

2不相当な対価をもってした有償行為は,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り,当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。