□ 行方不明は「相続人が不存在」には当たりません。生死不明の不在の状態の期間に応じ、「不在者財産管理人の選任」又は「失踪宣告の申し立て」を行います。
行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
1. 生きているのは確かだが所在地の確認ができない相続人がいる場合は「不在者財産管理人」を選任してもらう
元の住所地の家庭裁判所に「不在者財産管理人」を選任してもらい、その参加を得て遺産分割協議を行うことができます。
※ 不在者とは従来の住所・居所を去って容易に帰って来る見込みのない者を言います。
※ 不在者財産管理人は、遺産分割協議を成立させる場合は家庭裁判所の許可が必要です。
民法25条(不在者の財産の管理)
1. 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
2. 前項の規定による命令後、本人が管理人を置いたときは、家庭裁判所は、その管理人、利害関係人又は検察官の請求により、その命令を取り消さなければならない。
2. 生死不明の相続人がいる場合は、生死不明の不在の状態の期間に応じ、「不在者財産管理人の選任」又は「失踪宣告の申し立て」を行う
(1) 生死不明の不在の状態が7年未満の場合は、「不在者財産管理人」を選任して遺産分割を行う
普通失踪の状態(生死不明の不在の状態)が7年未満の場合は生きているものとみなされます。
利害関係人は、家庭裁判所に申し出て行方不明者の「不在者財産管理人」を選任してもらい、その参加を得て遺産分割協議をすることができます。
なお、相続人が不在者財産管理人を兼ねることはできません。
また、不在者財産管理人は、遺産分割協議を成立させる場合は家庭裁判所の許可が必要です。
(2) 生死不明の不在の状態が7年以上の場合
生死不明の不在の状態が7年以上の場合は、利害関係人から、元の住所地の家庭裁判所に「失踪宣告の審判申し立て」を行うことができます。
不在となった時から7年が経過した時点で死亡したものとみなされます。 (「普通失踪」)
戦争や船の遭難等の場合は、危難が去った後1年間とされ、危難が去ったときに死亡したとみなされます。(「危難失踪」)
① 失踪宣告が確定した日(行方不明の者が死亡したとみなされる日)が被相続人が死亡した日より前であるときは、行方不明の者は相続人ではないとみなされます。子(養子を含む)がいるときは子が代襲相続人として遺産分割協議に加わります。
② 失踪宣告が確定した日(行方不明の者が死亡したとみなされる日)が被相続人が死亡した日以後であるときは、代襲相続ではなく、数次相続として処理します。
民法30条(失踪宣告)
1. 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2. 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
(参考)「大災害における死亡認定制度」:大震災等により死亡したことは確実だが遺体が確認されない場合には、警察署長などが死亡地の市区町村に死亡報告を行い、戸籍に死亡の記載を行う制度があります(戸籍法89条 水難、火災その他の事変によつて死亡した者がある場合には、その取調をした官庁又は公署は、死亡地の市町村長に死亡の報告をしなければならない。但し、外国又は法務省令で定める地域で死亡があつたときは、死亡者の本籍地の市町村長に死亡の報告をしなければならない。)
(3) 遺産分割が終わった後で生きていることが判明した場合
遺産分割が終わった後で生きていることが判明したときは、失踪宣告は取り消され、さかのぼってその効力を失います。
ただし、そのことを知らずになされた行為(財産を相続した者から相続財産を譲り受けた)は有効です。また、財産を相続した者は財産が残っている範囲で返還すればよいとされています。
民法32条(失踪の宣告の取消し)
1. 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2. 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
(4) 行方不明の相続人がいる場合、被相続人に対する債権者等は「相続財産管理人」を選任するよう家庭裁判所に請求できるか
相続人が不存在の場合は、被相続人に対する債権者等の利害関係者等は、「相続財産管理人」を選任するよう家庭裁判所に請求できますが、行方不明は「相続人が不存在」には当たりません。