特別受益(特別受益者の相続分:生前贈与があると相続分が減らされる)

□ 特別受益となる生前贈与

① 結婚や養子縁組のために出してもらった持参金・支度金、嫁入り道具、新居、高額の結納、高額の新婚旅行費等(結婚式・披露宴の費用は除く) 

② 生計の資本としてなされた贈与( 単に生活の援助を受けた場合は除く)

(ⅰ) 独立開業資金 、(ⅱ) 住宅の新築資金や土地の贈与 、(ⅲ) 特定の子どもだけに対する留学費や多大な高等教育の学費(例:一人だけ医学部に進学した)、(Ⅳ) 農業者における農地の贈与 、(ⅴ) 借金の肩代わり  

 

□ 法定相続分を超過して生前贈与をもらっても、返す必要はありません。

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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1. 特別受益とは

 

  特別受益とは、相続人が受けた、特別受益となる生前贈与や遺言による遺贈をいいます。 

  特別受益の持戻しとは、特別受益となる生前贈与や遺言による遺贈を受けた相続人の遺産分割による取り分を減らすことをいいます。

 

 民法903条(特別受益者の相続分)

1. 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2. 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

3. 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

4. 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

 

2. 具体的に特別受益には何があたるのか

 

(1) 何が特別受益に当たるかは民法に定められています

 

 ア. 結婚や養子縁組のためになされた生前贈与

 

  高額の新婚旅行費等(挙式費用:結婚式・披露宴の費用は除きます)や持参金・支度金は、額が少額であり扶養の一部と認められる場合を除き、一般的には、特別受益にあたります。

 

  結納金・挙式費用は、婚姻のための親からの贈与というよりは、結納金については、相手方の親に対する贈与、挙式費用については、挙式に際しての親自らの利益のために支出した費用とみるのが相当であることから、一般に特別受益にあたらないと解されています。

 

イ. 生計の資本としてなされた贈与

 

(ⅰ) 独立開業資金を出してもらったなど商売への資金援助 

(ⅱ) 住宅の新築資金や土地の贈与 

(ⅲ) 農業者における農地の贈与などの生前贈与 

(Ⅳ) 特定の子だけに対する、留学費や多大な高等教育の学費(例:一人だけ医学部に進学した) 

 

 相続人全員が大学に進学している場合には、特別受益として考慮しないとされます。

 

 今日では大学を含む高等教育を受けることが一般的になっていますので、高等教育の学資というだけでは特別受益といえない場合もあります。

 

 普通教育以上の学資は、親の資産、社会的地位を基準とすれば、その程度の高等教育をするのが普通だと認められる場合には、そのような学資の支出は親の負担すべき扶養義務の範囲内に入るものとみなし、それを超えた不相応な学資のみが特別受益となると考えられている(大阪高裁決平成10年12月6日)。

 

(ⅴ) 借金の肩代わりをしてもらった 

 

・ 生活のための相当額の現金の生前贈与は、「生計の資本として」の贈与として特別受益にあたる。

・ 生活費貸与分の債務免除は、「生計の資本として」の贈与として特別受益にあたるとされる。

・ 孫等、法定相続人でない者に対する生前贈与は特別受益にあたらないが、孫に対する大学入学相当額の生前贈与は、法定相続人である、孫の親の扶養義務を援助するする生前贈与として、特別受益にあたるとされる。

 

※ 遺産の前渡しという意思が推測できるものに限られます。 

※ 小遣いや誕生祝い程度の贈与、単に生活の援助を受けた場合は除きます。

 

(出典:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.80‐84頁)

 

民法903条(特別受益者の相続分)

1. 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 

(2) 特別受益かどうか、判断が難しいもの

 

ア. 生命保険金

 

 生命保険金を受け取る権利は、被保険者の死亡により発生するものであり、被相続人が一旦取得したのち相続されるものではないので、基本的には相続財産には属さないと解されています。

 被相続人(契約者)が自分を被保険者とし、特定の相続人を受取人として指定していた場合は、生命保険死亡保険金は受取人の固有財産とされ、また、特別受益にあたりません

 

 受取人は保険契約の効力として保険金請求権を取得するものであり、受取人の固有財産となり、相続財産には属さない。(大判昭和11年5月13日) 

 ただし、保険金の額、遺産総額に対する割合、同居の有無、介護等に対する貢献度、各相続人の生活実態等から、他の相続人と著しく不公平とみられる場合は、例外的に特別受益に準じて持戻しが認められる場合があります。  

 過去の裁判例から言えば、相続財産総額(死亡保険金を除く)の半分を超える額の死亡保険金は特別受益にあたり、持戻しの対象となる可能性があります。

(出典:佐山和弘( 2018)『相続で絶対モメない遺産分割のコツ 言葉・空気・場の読みまちがいが命取り!』家の光協会.137頁) 

 

 なお、被相続人が自分自身を受取人として指定している場合は、保険金請求権は相続財産に属すると解されています。

 

イ. 死亡退職金

 

 死亡退職金は、会社の就業規則等で受取人の指定がある場合はもらう人の固有財産であり、特別受益にはあたらないとされています。

 相続人間で著しく不公平とみられるほどに高額の場合は、例外的に、特別受益に準じて持戻しが認められる場合があります。 

 

ウ. 遺族年金

 

 遺族年金は受給権を持つ人の財産とみなされます。特別受益持戻しは認められません 

 

3. 遺産分割協議で特別受益の持戻しを行い、「生前贈与」を受けた相続人の取り分を減らすことができます

 

 遺産分割を法定相続分を基準として行う(これが原則です)ことにより、特別受益となる、高額な生前贈与や遺贈を受けた人の取り分を特別受益額の分だけ減らすことができます。

 

  相続人の受けた「特別受益となる生前贈与」は、特段の事情のないかぎり、相続開始1年前になされたものに限ることなくすべて特別受益に該当します

 ただし、生前贈与をどの範囲まで特別受益とするかは、遺産分割協議の中で、相続人全員の合意で決めることができます。

 

 特別受益となる生前贈与の存在は、あると主張する相続人が立証しなければなりません。

 

 特別受益の持戻しは、遺産分割協議が終わった後で申し出ることは、原則できません。

 

4. 夫婦間で行った「居住用不動産の生前贈与(又は遺贈)」

 

  民法改正(平成30.7.13公布)により、改正前は、夫婦間で行った居住用不動産の生前贈与や遺贈については、相続の時にこれも遺産に加えて相続分を計算する必要がありましたが、改正により、婚姻期間20年以上の夫婦相互間における、居住用不動産の生前贈与や遺贈は、特別受益の持戻しをしない(相続時に遺産として計算しない)こととなりました。

 

 生前贈与は令和元年7月1日以降におこなわれたものについて適用されます。遺贈は遺言書の作成日付が令和元年7月1日以降のものについて適用されます。  

 

5. 法定相続分を超過して生前贈与をもらったときは、もらい過ぎ分を返す必要があるか

 

 法定相続分を超過して生前贈与をもらっていたとしても、相続分額がゼロとなるだけで、もらい過ぎ分を返す必要はありません。

 

 

 ただし、遺留分の侵害に当たる場合は、特別受益は遺留分侵害額請求の対象となります。

 

6. 結局の相続分額(各相続人の分け前)の計算の仕方

 

 特別受益額を「みなし相続財産額」(遺産)に加え、相続人別の分け前を計算します。そのうえで、特別受益をもらった人の相続分額(分け前)を特別受益額だけ減らします。 

 

 特別受益者の相続分=相続開始時の財産の価額+特別受益額(生前贈与の価額)ー寄与分の価額× 法定配分率(法定相続分)ー 各人の特別受益分の価額+各人の寄与分の価額

 

 特別受益の価額の評価基準時(金銭的評価の基準時)は相続開始時です。

 土地などの価値が相続時に値上がりしているときは、贈与時の時価ではなく、相続時の時価で計算します。  

 現金も物価上昇率を勘案し現在の価値に引き直します。  

 

【手順1】 

 相続開始時の財産の価額に、特別受益の価額を加算し「みなし相続財産の価額」をだします。 

 矢印 

【手順2】 

 「みなし相続財産の価額」を基に法定配分率(法定相続分)で遺産配分額を計算します。 

 矢印 

 【手順3】 

 特別受益者の相続分の価額は、この配分額から特別受益の価額を控除した金額となります。  

 

 

 

 

民法903条(特別受益者の相続分)

1. 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2. 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

3. 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

4. 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。