推定相続人廃除

□ 財産を相続させない方法として、①推定相続人の廃除、②相続放棄をさせる、③遺留分の事前放棄と遺言の組み合わせ があります。 

□ 推定相続人廃除は推定相続人から相続権をはく奪することを意味し、次の場合にのみ行うことができます。

①被相続人に虐待をし続けた。②被相続人にひどい侮辱をした。③浪費借財犯罪不貞行為遺棄行方不明等、著しい非行がある相続人。 

□ 相続人廃除の方法は、①生前に家庭裁判所に申し立てをする方法と②遺言で行う方法とがあります。

□ きょうだいを相続人廃除することはできません(きょうだいに遺産を何もあげたくない場合は遺言で全遺産を第三者にあげれば足りるから)。 

□ 相続人から廃除した者に子がいる場合は、廃除した者の子(代襲相続人になる)から遺留分侵害額請求をうける恐れがあります。注意が必要です。 

 

民法892条(推定相続人の廃除)   

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

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埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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ポイント 関連情報

➤推定相続人廃除

遺言による推定相続人廃除

相続放棄

遺留分の放棄

1. 相続人廃除とは

 

  被相続人の意思によって、遺留分を有する推定相続人(相続開始前の「法定相続人」のこと)に相続をさせないようにすることができます。これを推定相続人の廃除といいます。

 

  推定相続人の廃除は遺留分を否定し、相続させたくない推定相続人の相続権を完全に奪い去るもので、推定相続人から相続権をはく奪することを意味します。

 

2. 推定相続人廃除の方法 

 

  推定相続人の廃除の方法は、①生前に家庭裁判所に申し立てをする方法と、②遺言で行う方法 とがあります。

 

(1)生前に家庭裁判所に申し立てをする方法

 

  被相続人は、生前に家庭裁判所に推定相続人廃除の請求をすることができます。この申し立てができるのは被相続人本人に限られます。

 

(2)遺言により相続人廃除の申し立てをする方法  

 

  遺言で推定相続人の廃除をすることができます。この場合、遺言執行者は、遺言者が死亡したときに家庭裁判所に推定相続人廃除の申し立てを行い、推定相続人廃除の審判確定後、「推定相続人廃除届」に審判書謄本と確定証明書を添付して住所地又は本籍地の役場に提出します。 

 

3. 相続人廃除の対象者~廃除されるのは遺留分を有する推定相続人に限られます~

 

  推定相続人の廃除は、被相続人の配偶者、子、父母など、遺留分を有する推定相続人に対してのみ行うことが認められます。被相続人の きょうだい には遺留分はありませんので、推定相続人廃除を行うことはできません。きょうだい に遺産を何もあげたくない場合は遺言で全遺産を第三者にあげれば足りることから、このようになっていると説明されています。

 

4. 家裁で推定相続人廃除が認められるための要件

 

  家庭裁判所の審判で推定相続人の廃除が客観的に正当であると判断され認められるためには、廃除の正当理由を要約し具体的に記載しておく必要があります。  

  なお、家庭裁判所の審判では、推定相続人廃除の事由に該当する行為の存否だけでなく、当該行為に至った経緯や原因・理由及び、一時的なものであったか繰り返し継続的であったかといった事情も含めて判断されますので、これらについても記載しておく必要があります。

 

5. 推定相続人廃除が認められる具体的な廃除の事由

 

(1) 被相続人を虐待した

 

  「虐待」とは暴力や耐えがたい精神的な苦痛を与える行為を意味します。

 

(2) 被相続人に対して重大な侮辱を加えた

 

  重大な侮辱とは、名誉を棄損する行為や自尊心を傷つける行為、耐えがたい精神的苦痛を与えたり感情を害する行為を意味します。

  被相続人に対する暴言については、耐え難い精神的苦痛を与えたり感情を害したりし、名誉を棄損する行為や自尊心を傷つける行為に該当することがあるかもしれませんが、家庭裁判所ではそのような言動がなされた情況も含めて判断されます。

 

(3) その他の著しい非行があった

 

  「その他の著しい非行」に当たる行為としては、被相続人名義の預金を無断で払い戻し着服や浪費をした、介護をしないなどが挙げられ、その程度としては、虐待や侮辱に匹敵する程度の損害や精神的苦痛を与える行為であることが必要とされています。 

  なお、「その他著しい非行」については、虐待・侮辱とは異なり、その向けられた相手は、被相続人以外の家族に向けられたものも含まれるとされています。 

 

  行方不明については、家出をして長い間連絡をとらないといったことだけでは、相続人廃除が認められる事由としては不十分で、ほかにも著しい非行を裏付ける理由があることが必要とされています。

 

※1 相続人廃除が認められる「虐待」や「重大な侮辱」にあたるか否かの判断基準

 

  相続人廃除が認められる「虐待」や「重大な侮辱」にあたるか否かは、当該行為に至る経緯や原因・理由、あるいは、一時的なものであるか繰り返し継続的なものであるか、といった情況も含めて判断される。

 

※2 相続人廃除が認められる「虐待」「重大な侮辱」又は「著しい非行」の程度

 

  相続人廃除が認められる事由となる、虐待、重大な侮辱又は著しい非行の程度については、家族間の共同生活を破壊されるとともに修復が著しく困難になっている程度であることが必要とされてる。

 

  なお、廃除する推定相続人が配偶者の場合は、離婚原因である「婚姻を継続しがたい重大な事由」と同程度であることが必要とされている。

 

(参考)「婚姻を継続しがたい重大な事由」

 

①    配偶者に「不貞な行為」があった  

②    配偶者から「悪意で遺棄された」

③    配偶者の3年以上の生死不明  

④    配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない  

⑤    婚姻を続けていかれない重大な事由 

・ 「生活観」「価値観」「人生観」などの相違。性格の不一致

・ 配偶者に同居に耐えられないような侮辱を受けた 

・ D V,暴行、虐待(身体的暴力、心身に有害な影響を及ぼす言葉等による精神的な暴力。経済的虐待もこの事由にあたることがあります)

・ モラルハラスメント(舌打ち、ドアをわざと大きな音を立てて閉める、家事の細かなミスを指摘するなどして相手を委縮させる等の不快な行動や態度) 

※ 診断書、ケガの写真などで証明します。 

 

・ 借金、ギャンブル、浪費 

・ 働けるのに働かない 

・ 過度に宗教活動に専念したことにより夫婦仲が破綻している  

※ 宗教や信仰それ自体がただちに離婚理由になるということではありません。 

 

・ 愛情が冷却している

・ 性的異常、性交不能であることを知らせないで婚姻した、継続的に性交渉を拒否している 

・ しゅうとの嫁いじめがひどい 

・ 配偶者から、自分の直系尊属が重大な虐待や侮辱を受けた 

・ 配偶者が破廉恥な罪で刑に処せられた。配偶者がその他の罪で三年以上に刑に処せられた 

※ 犯罪行為・服役の事実だけで離婚が認められるわけではありません。配偶者の名誉が傷ついた、家族の生活に困難をもたらした、といった事情がある場合に限られます。 

 

・ アルコール中毒、薬物中毒があり、それが原因で夫婦仲が破綻している 

・ 重度でない精神障害や難病、重度の身体障害があり、それが原因で夫婦仲が破綻している 

※ ただし、障害のある配偶者に対し誠意ある介護・看護をしてきた、離婚後の療養、生活などに具体的方策が講ぜられ、その見込みがついた、といった事情が必要です。

  

・長期の別居 5年以上継続して別居が一応の目安になると考えらます。

 

※3 非行に該当する行為や素行不良と総合考慮して判断される

 

   例えば、刑法上の傷害罪、暴行罪、遺棄罪、逮捕監禁罪などは虐待に当たり、名誉棄損罪、侮辱罪等は重大な侮辱に該当すると考えますが、刑事罰を受けていなくても、また、刑事罰に当たるほどの行為でなくても、他の非行に該当する行為と総合考慮して判断されることになります。

  また、これらの行為に該当しないとしても、被相続人との人的信頼関係を破壊するような行為は著しい非行として排除事由になると考えます。例を挙げると、被相続人に暴力を振るう、被相続人の財産を浪費する、素行不良などがあります。  

 

6. 廃除事由となる具体的事実の記載について

 

  「虐待」や「重大な侮辱」については、暴力や侮辱を受けた年月日、当該行為に至る経緯や原因・理由、繰り返し継続的であるという事情、暴力や侮辱の詳しい内容、その事実を知っている人の住所・氏名、暴力を伴う虐待でケガをして病院で治療を受け場合は医師の診断書の内容など具体的に記述し、客観的に裏付ける必要があります。

 

  「その他著しい非行」については、金額、精神的苦痛、被相続人の生活状況なども具体的に記述する必要があります。  

 

7. 推定相続人廃除の効果

 

① 相続人資格を失います。

② 推定相続人廃除の効果は第三者にも及びます。 

③ 矛盾するようですが、推定相続人の廃除をされても遺贈は受けることができます。 ※ 相続欠格は遺贈も受けられません。

 

(1)推定相続人の廃除と代襲相続 

 

  「推定相続人の廃除」や「相続欠格」により推定相続人が相続人でなくなってもその子や孫は代襲相続」ができます。したがって、相続人廃除をする相続人に子がいる場合は、推定相続人の廃除をする相続人の子から代襲相続人として遺留分侵害額請求をうける場合がありますので、注意が必要です。

  なお、推定相続人が「相続放棄」した場合は代襲相続は認められません。

 

(2)推定相続人の廃除と扶養義務 

 

  推定相続人の廃除をしても、親子の縁が切れるわけではありません。扶養の権利義務は存続します。 

 

8. 相続人の廃除の取消し 

 

 推定相続人の廃除は被相続人の意思でいつでも取り消すことができます。

 

(1)生前廃除・生前取消(家庭裁判所に相続人取消請求をする)

 

  家庭裁判所で推定相続人の廃除をしても被相続人の意思でいつでも家庭裁判所に推定相続人の廃除取消請求の申し立てを行い、推定相続人の廃除の取消しをすることができます。 理由は一切問われません。

 

(2)生前廃除し遺言で取消すこともできる生前廃除取消の遺言)

 

   家庭裁判所に申し立て、推定相続人の廃除をしたが、事情が変わった場合等は、遺言で廃除を取消し推定相続人に戻すことができます(生前廃除取消の遺言)。理由は一切問われませんが、取り消しが遺言者の真意であることが分かるように理由を書いておくことをおすすめします。 

 

民法第894条(推定相続人の廃除の取消し)

1.被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

2.前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。

 

※ 相続欠格には取消はありません。