□ 「寄与分」とは、「相続人」が被相続人の家業を手伝ったり看病や介護をした場合に、遺産分割において、その相続人の法定相続分に上乗せして財産を分ける制度です。
寄与分が認められるのは相続人だけです(なお、民法改正(H30.7.13公布)で、寄与したのが「相続人に該当しない親族」の場合について「特別の寄与の制度」が設けられました)。
□ 寄与分をどのくらいあげるかについて基準はありません。遺産分割の協議(相続人の話し合い)で決めます。
□ 寄与分については、親族間で争いがおこることがあります。もめ事を回避するため「遺言」に寄与分を書いておくことが有効です。ただし、遺言に寄与分ないし寄与の事情を書いても、あくまで付言事項であり、法的拘束力はなく、相続人同士の協議における判断材料にとどまります。寄与分を確実にあげたいのであれば、寄与分を考慮した相続分の指定をするなどが有効です。
民法904条の2(寄与分)
1. 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2. 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3. 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4. 第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。
1. 寄与分とは
寄与分とは、被相続人の家業を手伝ったり、看病や介護をするなどして、相続財産の維持・増加に貢献した相続人に、法定相続分に上乗せして財産を分け、優遇する制度です。法定相続分にプラスして財産がもらえ、このプラス分を「寄与分」といいます。
2. 寄与分が認められる場合
(1)民法上、2つ例示されています
① 被相続人の事業に関する「労務の提供又は財産上の給付」があった場合。
② 被相続人に対する「療養看護」その他の方法により、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与があった場合。
(2) 寄与分が認められる具体例
① 家事従事
商売を手伝うなど家業にほとんど無報酬で従事した、あるいは、父母が事業に従事していたので、母に代わって長年家事にほとんど無報酬で従事した。 ただし、給与を受け取っていた場合は、無償の寄与に当たりません。
■ 家事従事の寄与分の計算・・・
寄与者が通常得るであろう年間給付額 ×(1-生活費控除割合)× 寄与年数
② 金銭等出資
親の店の改装資金を出すなど被相続人に対し資金援助した
■ 寄与分の計算・・・贈与当時の金銭 × 貨幣価値変動率
□ 親の生活費を賄ってきた
■ 寄与分の計算・・・費用負担額
③ 親の財産の管理を行い、管理費用の支出を免れさせた
■ 寄与分の計算・・・費用負担額
④ 療養看護
要介護度5の親を業者を頼らず付きっきりで介護した。あるいは、会社を辞め親の介護をした
■ 寄与分の計算・・・付添い看護婦等の日当額 × 療養看護日数
※ただし、同居してお世話をした程度では寄与分は認められません
親子、夫婦間では助け合い、互いに扶助し合うことは当然と考えられています。同居して通院に付き添うなど、通常のお世話をした程度では扶養義務を履行しただけとされ、寄与分は認められません。
3. 寄与分を申し出ることができる人
寄与分をもらえるのは「共同相続人のみ」です。
ただし、以下の例外があります。
(1)代襲相続人
通説は、代襲相続人は自分の寄与分と、被代襲者の寄与分を主張できると解しています。(小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識』日本加除出版.183頁)
「相続欠格者」又は「相続人から廃除された者」の代襲相続人は、被代襲者の寄与分を主張できるとされています。(小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識』日本加除出版.182頁・183頁)
※ 「相続放棄」した相続人は寄与分の主張をすることはできません 。
家庭裁判所に相続放棄の申述をした相続人は、・・・寄与分の主張をすることはできません。(小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識』日本加除出版.183頁)
また、「相続放棄した相続人の代襲相続人となるべき相続人」は代襲相続の主張をすることはできません 。
(「相続放棄した相続人の代襲相続人となるべき相続人」は「相続欠格者」又は「相続人から廃除された者」の代襲相続人と異なることに注意。)
※ 「相続分の譲渡」がなされた場合の相続分の譲受人は譲渡人の寄与分の主張をすることはできません 。
(2)相続人の配偶者
相続人の配偶者(例えば、長男の嫁)が、義母を献身的に介護した場合は、義母の遺産分割協議にあたって、長男(長男の嫁ではなく長男)が、嫁がした介護を理由に寄与分を主張できます。(東京高決平成22.9)(小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識』日本加除出版.184頁・185頁)
4. 寄与分を決める手順
「寄与分」があるか否か、あるとしたらどれくらいの割合かは、相続人全員の協議(*)によって決まります(民法904条の2第1項)。
* 遺産分割ではありませんが、遺産分割の前提となる協議です。
「寄与分」は、相続人同士の協議で主張して通らなかったときは家庭裁判所に調停又は審判の申し立てを行うことができます。
家庭裁判所は、一切の事情を考慮して寄与分を定めることになっています。
5. 遺産分割が終わった後で寄与分を申し出ることはできない
遺産分割が終わった後で、寄与分を申し出ることは、強迫や錯誤があった場合を除き、原則できません。
6.もめ事を回避するため「遺言」に寄与分を書いておくことが有効
寄与分については、親族間の争いがおこることがあります。もめ事を回避するため「遺言」に寄与分を書いておくことが有効です。
ただし、遺言に寄与分ないし寄与の事情を書いても、あくまで付言事項であり、法的拘束力はありません。相続人同士の協議における判断材料にとどまります。
寄与分を確実にあげたいのであれば、下記のように寄与分を考慮した相続分の指定をするなどが必要です。
(1) 遺言で寄与分を考慮した相続分の指定をする。
(2) 寄与相当分の財産を 》死因贈与 する。
(3) 寄与相当分の財産を「生前贈与」する。
なお、この場合、他の相続人の遺留分を侵害しないよう注意する必要があります。
7. 寄与分は遺留分に優先します
寄与分は遺留分に優先します。遺産分割で寄与分として取得すれば、遺留分侵害額請求の対象からは免れます。
ただし、裁判所が寄与分を決めるにあたっては、他の相続人の遺留分についても考慮すべき、としている(東京高裁1991.12.24)。
8. 寄与分があるときの遺産分割
寄与分があるときの遺産分割の実態は、寄与のあったことを加味して遺産を分配する形が多いと言われています。
9. 遺贈は寄与分に優先します
寄与分は遺産から遺贈(遺言で与えた財産)を差し引いた残額の範囲でしか認められません。
つまり、遺贈は寄与分に優先します。
したがって、遺言で全遺産が処分されていれば、寄与分を主張する余地はありません。
10. 寄与者の相続分の計算の仕方
寄与分が相続人同士の協議で認められたら、相続開始時の財産から寄与分(額もしくは割合)を除いて「みなし相続財産」を算出し、それを基に法定配分率で各相続人の配分額を計算し、寄与者にはこの配分額に寄与分を上乗せします。
□ 寄与者の相続分=(相続開始時の財産価額(*)ー 寄与分額)× 法定配分率(または指定相続分率)+ 寄与分額
* 債務を控除しない積極財産の価額です。
(特別受益者及び寄与相続人がいる場合)
■ 「寄与者」の相続分=(相続開始時の財産価額(*)+ 特別受益額 ー 寄与分額) × 法定配分率(または指定相続分率)+ 寄与分額
■ 「特別受益者」の相続分=(相続開始時の財産価額(*)+ 特別受益額 ー 寄与分額) × 法定配分率(または指定相続分率)− 特別受益額
■ 「特別受益者及び寄与相続人以外」の相続分=(相続開始時の財産価額(*)+ 特別受益額 ー 寄与分額) × 法定配分率(または指定相続分率)
* 債務を控除しない積極財産の価額です。
(出典:小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識 』日本加除出版.191-192頁)