□ 自分に不利な遺言をされた相続人は、理由をさがして無効を主張することがあります。 そのとき理由として使われるものに、①遺言書の偽造・変造、②方式違反、③遺言能力の欠如、④遺言者に対する詐欺・強要(取消事由)などがあげられます。
□ 遺言が無効であることの証明は、無効を主張する者が証明しなければなりません。
□ 遺言の拘束力
相続人全員の合意と受遺者・遺言執行者の同意があれば、遺言と異なる内容で遺産分割をすることができます。ただし、遺言者は5年を超えない期間を定めて、遺産分割を禁止することができます。
行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
1. 遺言書の偽造・変造
2. 方式違背の遺言
(1) 遺言の方式による制限
遺言の方式による制限として、①遺言者の国籍その他の人的資格による遺言の方式の制限、②証人が有するべき資格による制限、③書面によらなければならないか否かによる制限、③書面はだれがどのような方法で記載するかによる制限、④口答による遺言の場合、記録の要否による制限、⑤証人の立ち合いの要否による制限、⑥証人の人数による制限、などがあります。
方式違背の遺言は無効です。
(2) 「証人欠格」の遺言書の効力
未成年者、推定相続人(将来、相続人になる人)、受遺者(遺言で財産をもらう人)並びに推定相続人・受遺者の配偶者及び直系血族は証人になれません。
証人の署名の代筆は、できません。
証人欠格の遺言は無効です。
3. 遺言能力の欠如
認知症などで判断能力がなくなり、遺言がどのような意味を持ち、どのような権利変動が生ずるのかを理解する能力がない者のした遺言は無効です。
成年被後見人は、本心に復しているときは、2人以上の医師の立ち会いがあれば単独で公正証書で遺言をすることができます。
満15歳に達していないときにした遺言は無効です。
詳しくは、》》遺言能力 をご覧ください。
4. 「錯誤による遺言」は無効です。遺言者に対する詐欺・強要.による遺言は取消できます
財産上の事項は錯誤、詐欺又は脅迫を理由に取消しをすることができます。 相続人は取消権を相続します。
ただし、認知等、遺言上の身分上の事項は無効とはなりません。
民法第95条(錯誤)
1.意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2.前項第二号の規定による意思表示の取り消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3.錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取り消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
第1項の規定による意思表示の取り消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
民法第96条(詐欺又は強迫)
1.詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2.相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3.前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
5. 「共同遺言」は無効です
共同遺言とは、2人以上が連名で遺言をすることです。共同遺言の例として、夫婦連名でする遺言があります。
共同遺言は無効です。遺言は、必ず一人ひとりでしなければなりません。
民法975条が共同遺言を禁止した趣旨は、遺言者の自由な撤回ができなくなり、最終意思の確保という遺言の趣旨が阻害されたり、一方の遺言について無効原因がある場合に他の遺言の効力がどうなるかについて複雑な法律関係が発生するおそれがあるからとされています。
民法975条(共同遺言の禁止)
遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。
6. 「代理遺言」は無効です
今は意識不明だが、意識があるときに言っていたとして、他の誰かが代理で遺言をすることは禁止されています。
7. 「公序良俗に反する遺言」は無効です
公序良俗に反する遺言とは、社会通念に反する事項や犯罪になるような事柄を内容とした遺言のことです。
個人の自由を極度に制限するもの 例えば、「再婚しないことを条件に遺贈する」遺言は、公序良俗に反し無効となります。
不倫関係にあった者に対する遺贈について 最判昭和61年11月20日
■ 愛人への遺贈の有効条件
・ 不倫関係に維持継続を目的とするものでないこと
・ 専ら生計を遺言者に頼ってきた者の生活を保全する目的であること
・ 相続人の生活の基盤を脅かすものでないこと
8. 遺贈の目的物が遺言者の死亡時点で相続財産に含まれないとき
遺贈の目的物が遺言者の死亡時点で相続財産に含まれないときは遺贈は無効です。ただし、「その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的とした」ものと認められるときは、その遺言は有効です。
民法996条(相続財産に属しない権利の遺贈)
遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。
9. 遺言による相続開始時点で受遺者が死亡しているとき
遺言による相続が開始した時点で受遺者が死亡しているときは、受遺者が受けるべきであったものは、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、相続人に帰属します。
(遺言に複数の「包括遺贈」があるときも同じ)
遺言に複数の包括遺贈があり、遺言による相続が開始した時点でそのうちの一人又は数人の包括受遺者が死亡しているときは、包括受遺者は相続人と同じ地位とはなるものの、死亡している包括受遺者が受けるべきであったものは、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、生存している包括受遺者には帰属せず、死亡している包括受遺者が受けるべきであったものは相続人に帰属します(令和5年5月19日最高裁第二小法廷判決 )
民法995条 遺贈が、その効力を生じないと き、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
10. 遺言が複数あるとき、それぞれの遺言の効力
遺言事項として書かれている内容が互いに矛盾しなければ、それぞれの遺言が効力を有します。
書かれている内容が矛盾する場合は、抵触する部分についてのみ、日付の新しい遺言で日付の古い遺言を撤回したものと見なされます。なお、抵触していない部分については、古い遺言も有効です。
遺言事項として書かれている内容が矛盾するときは日付の新しい遺言の遺言事項を有効とすることに関しては遺言の種類は関係ありません。
民法1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
1 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
遺言無効確認請求訴訟における「立証責任」はだれにあるか
遺言書が方式を欠く「方式違背の遺言」である等、遺言の成立要件に関するものは、遺言書が有効であると主張する側によって立証されなければならないと考えられています。
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