① 包括遺贈の場合、債務は遺贈を受けた割合に応じて承継します。各共同相続人は遺産の分配、遺贈、贈与を含めた現実に取得したプラスの相続分に応じて債務を負担します。
② 債務を特定の相続人に承継させる旨の遺言をしても、債権者の承諾がない限り、債権者に対し効力がありません。
③ 遺言でプラスの財産と別に債務だけを承継させることはできません。
④ 遺言で「債務の承継を負担として規定」することができます。ただし、債権者の承諾がない限り、債権者に対し効力がありません。
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埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
➤遺言による債務の承継
1. 債務の承継先を遺言で定めることもできます
(1)法定相続の場合
法定相続分により相続する場合は、各相続人は被相続人の債務をその法定相続分(割合)に応じて承継します。
(2)遺言により相続分の指定がなされた場合
遺言により相続分の指定がなされた場合は、各相続人はその指定相続分(割合)に応じて債務も承継します。
(3)債務の承継先を遺言で定めた場合
相続人間の内部的な債務の負担割合を被相続人が定めることも可能であり、相続分の指定で多くの財産を相続することになる者にその指定割合を超える多くの債務(全債務を含む。)を負担させることも可能です。(出典:日本行政書士会連合会『月刊日本行政(2024.11) №.624』. 37頁)
民法899条(共同相続の効力)
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
民法902条(遺言による相続分の指定)
1. 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
2. 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
民法900条(法定相続分)
1. 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
(1)子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
(2)配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
(3)配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
(4)子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
民法901条(代襲相続人の相続分)
1. 第887条第2項又は第3項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2. 前項の規定は、第889条第2項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
2. 債務の承継先を遺言で定めた場合の債権者拘束力
債務を特定の相続人に承継させる旨の遺言をしても(あるいは、相続分の指定に際し、可分債務について法定相続分と異なる負担割合を指定しても)、債権者の関与なしになされたものであることから、債権者の承諾がない限り、効力はありません(債権者は拘束されない。)。
したがって、債権者は、遺言による相続人に支払い能力がないと思ったときは、他の相続人に法定相続分に応じて支払いを請求することができます。
また、債権者は、遺言による相続人に支払い能力があると思ったときは、その債務の承継を承認する旨の意思表示を行うことにより、遺言による相続人に支払いを請求することができます。
なお、一旦債務の承継を承認する旨の意思表示を行うと、実際には遺言による相続人に支払い能力がなかったことが判明しても、これを撤回することはできません。
(出典:日本行政書士会連合会『月刊日本行政(2024.11) №.624』. 38頁)
民法902条の2(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。
※平成21年3月24日最高裁判例を明文化したものです。
3. 債務だけを特定の相続人に承継させることはできるか
遺言でプラスの財産と別に債務だけを承継させることはできません。
民法899条(共同相続の効力)
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
4. 包括遺贈受遺者と債務の承継
包括遺贈の場合も債務は遺贈を受けた割合に応じて承継します。包括受遺者を含む、各共同相続人は、遺産の分配、遺贈、贈与を含めた現実に取得したプラスの相続分(*)に応じて債務を負担します。
* 特別受益、寄与分は無関係として除きます(多数説)
民法964条(包括遺贈及び特定遺贈)
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
5. 特定遺贈受遺者と債務の承継
特定遺贈の場合は、債務は承継しません。ただし、債務の承継を負担として規定することができます。
なお、債務の承継を負担として規定しても、債権者の承諾がない限り、債権者に対し効力はありません。
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