民法964条(包括遺贈及び特定遺贈)
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
1. 特定遺贈と包括遺贈の併存
特定遺贈とその特定遺贈を除く包括遺贈の組み合わせによる遺言についても、相続全体としてとらえれば、特定遺贈も遺産全体に占める遺贈の割合を示していることから包括遺贈とみなすことができると考えられています。(上記のイメージ図参照)
包括遺贈と特定遺贈の併存については、消極説もあるが、通説は併存を認めている(例えば、新版注釈民法(28)[補訂版]219頁〈阿部徹〉は、「特定遺贈がされている場合は、包括受遺者も特定受贈者対する遺贈義務者となる」としており、これは、包括遺贈と特定遺贈が併存し得ることを前提としている。)。この点に関する詳細については、公証101号286頁以下を参照されたい。
(出典:日本公証人連合会(2017)『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』立花書房.69頁)
また、例えば、NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版146頁は、「特定遺贈がされている場合は、包括受遺者も特定受贈者対する遺贈義務者となる」としており、これは、包括遺贈と特定遺贈が併存し得ることを前提としている。
2. 特定遺贈と包括遺贈の併存による遺言
(遺言文例)
1. 下記の土地(農地)は、甥〇〇〇〇(生年月日)に包括遺贈する。
(下記省略)
2. 上記「1」の財産を除く、遺言者の有する全ての財産を、妻〇〇〇〇、甥〇〇〇〇(生年月日、住所)に各2分の1の割合で包括遺贈する。
3. 包括遺贈
(1)包括遺贈
包括遺贈とは、遺言により、財産の全部を、相続人又は相続人以外の他人若しくは法人に無償譲渡することであり、遺贈の目的物を特定せずに、遺産全体に対する分数的割合によって目的物財産を特定の者に承継させることをいいます。
例えば、「財産全部をBに贈与する」、「全財産の3分の1をBに贈与する」といったように 遺言します。(「不動産の何分の1を贈与する」は包括遺贈ではなく特定遺贈です)
(2)包括受遺者の権利義務
包括受遺者は、相続人以外の他人であっても、相続人と同等の権利義務を有します。
① 包括遺贈と債務(借金)の承継
包括遺贈の受遺者は、特定遺贈と異なり、債務(借金)も承継し、指定の割合で引き継がなければなりません。
② 包括受遺者の相続上の身分
包括受遺者の相続上の身分は相続人と変わりません。相続人以外の他人(法人を含む)であっても、相続人と同等の権利義務を有し、互いに共同相続の関係になり、遺産分割協議に加わります。
(3)不動産の包括遺贈と遺贈義務者
遺贈に伴う不動産の所有権移転登記申請は、包括遺贈によるもの及び特定遺贈によるもの、いずれも受遺者単独ではできません。受遺者と相続人との共同申請によらなければなりません。(又は、遺言で指定した遺言執行者が行う)
したがって、将来、受遺者が登記申請しようとする場合に、相続人の協力が得られないことが予想されるときは、あらかじめ遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。
※民法改正により、改正前は、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」遺言について、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限はないとされていたが、改正後は、「相続させる」遺言についても、遺言執行者は相続登記の申請権限があると変更された。 (令和元年7月1日施行。令和元年7月1日以降に開始した相続について適用)
(4)包括遺贈の放棄
包括遺贈の放棄は、相続の承認・放棄に準じて取り扱われます。包括受遺者は、相続人と同じく、相続があったことを知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所に申し出なければなりません。
包括遺贈の受遺者が遺贈を放棄したときは、その遺贈分は相続人に帰属します。(他に割合による包括受遺者がいてもその包括受遺者には帰属しません)
(5)包括遺贈の遺言の注意
包括遺贈の遺言は、「包括して遺贈する」又は「包括遺贈する」と明記すべきとされています。
単に「一切の財産を〇〇〇〇に遺贈する」では、積極財産、消極財産を包括して承継させる趣旨であるか、それとも積極財産の遺贈の趣旨であるのかについて疑義が生じる恐れがある。包括遺贈の趣旨である場合、明確に「包括して遺贈する」と記載すべきである(参照:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.160頁)
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