行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
関連情報
➤相続とは。相続の開始
1. 相続とは?
相続とは、被相続人が死亡したときに持っていた財産上の権利義務をを相続人が当然かつ包括的に引き継ぐことをいいます。
「当然に」引き継ぐとは、相続人が相続の開始(死亡の事実)を知らなくても、財産は相続人に移転するということです。
「包括的に」引き継ぐとは、相続の開始により、マイナスの財産(債務)も含めて、財産上の権利義務はすべて相続人に移転するということです。
相続によって引き継ぐのは財産であって、地位や身分ではありません。年金の受給権等、一身専属的なものは承継しません(*1)。
2. 相続人が複数いる場合の、遺産分割前の相続財産に対する相続人の権利
相続人が複数いる場合は、相続財産は遺産の分割がされるまで、相続人の共有となります(民法898条)。
この遺産の共有の性質については、個々の財産に対して共同所有関係が成立するとする共有説と、相続財産全体の上に共同所有関係が成立するとする合有説がありますが、判例は共有説を採っています(大判大正9.12)。
(出典:小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識 -相続人と相続分・遺産の範囲・遺産分割・遺言・遺留分・寄与分から戸籍の取り方・調べ方、相続登記の手続・相続税まで-』日本加除出版.(37-38頁)
すなわち、相続人が複数いる場合は、相続財産上の権利義務はすべて複数の相続人に包括的に移転し、相続財産は、遺産の分割がされるまで、相続人全員の共有となり、個々の財産に対して共同所有関係が成立し、各相続人は、相続分に応じた共有持分を有します(*2・3)。
*1 民法896条(相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
相続人の一身に専属したもの:委任契約上の権利義務、代理権、扶養請求権など。
*2 民法898条(共同相続の効力)
1. 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
2. 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第900条から第902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。
*3 民法899条(共同相続の効力)
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
3. 相続の開始
相続は人が亡くなると同時に開始されます(*1)。
*1 民法882条(相続開始の原因)
相続は、死亡によって開始する。
4. 失踪宣告と相続の開始。
裁判所から「失踪宣告」を受けた場合も相続が開始されます(*2・3)。
失踪宣告を受けた者が、実は生存していた場合や、死亡とみなされた時期と異なる時期に死亡したことが判明た場合、これらの証明があると、本人もしくは利害関係人の請求により、家庭裁判所は失踪の宣告を取り消さなければなりません。(*4 民法32条1項)
失踪宣告が取り消されると、相続は開始しなかったことになり、遺産分割も効力を失います。しかし、民法は、相続人はその財産が原形又は形を変え残っている限度でのみ、その財産を返還すればよいとしています。(*4 民法32条2項)
なお、この返還義務は善意の者であっても負います。悪意の場合は、不当利得の悪意の受益者(民法704条)となり、受けた利益に利息を付して返還する義務を負う、と解するのが通説です。
また、失踪宣告後、取り消しまでの間に、相続人が事情を知らない第三者に財産を譲渡した場合には、その第三者に返還義務はない、としています。この場合、当事者双方が善意であることが必要とされています。
*2 民法30条(失踪宣告)
1. 不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2. 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも、前項と同様とする。
*3 民法31条(失踪の宣告の効力)
前条第1項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第2項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。
*4 民法32条(失踪の宣告の取消し)
1. 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2. 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。
》 行方不明の相続人 もご覧ください。
5. 被相続人と法定相続人が同時に死亡した場合
被相続人と法定相続人が同時に死亡した場合において、法定相続人が被相続人の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、相続は開始しません(*1)。
*1 民法32条の2(同時死亡の推定)
数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。